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# リセット
2010/11/30 01:01
「ずぁーっそー!また死んだぁ!」
ユウイチは前にセーブした地点に戻るため、いつものようにスーパーファミコンをリセットさせた。
教会に行けば死者を蘇らすことができる歩き慣れたファンタジアにおいて、ユウイチは「この主人公は死んだことがある」という汚点を冒険の書に残したくなかった。
一貫して勝ち続ける主人公に、無責任な憧憬を抱いていた。
魔王を倒して別の冒険に旅立つのはもう少しだ。

母親と父親と夕飯を食べていると、ちょうど20時台の番組が終わり、GALA ネクストマンションシリーズ提供の「NEWS レインボー」が大きい音を立てて始まった。番組と番組の間に挟まる3分ほどのニュースが、小学6年生の女の子が同級生をカッターナイフでめった刺しにした事件を報道していた。
昼間の家事の合間に何度も同じニュースを見ているだろう母親が、初めて見たような口ぶりでユウイチに嘆く。
「最近の子たちは、外で遊ぶというよりは家でゲームで遊ぶのが当たり前になってきてるから、ゲームの影響がすごく大きいんだろうねえ。人を殺してもリセットしてやり直せたり生き返らせたりできるって、本気で思ってるからこんなこと出来るんだろうね」
父親はぼそっと「かわいそうだな」とつぶやいた。ニュースは終わり、女子アナが明日は曇りのち晴れだと嘘をついた。今夜の金曜ロードショーは「ナショナル・トレジャー」らしい。

父親が誰に対して「かわいそうだ」と思ったかなんて考えもせず、食事が終わったユウイチは冒険の書を開こうとした。
その時、あの悪魔のメロディを聴いた。
デジタルの些細な気まぐれで、ユウイチの約60時間の冒険が、水泡に帰したのだった。
その現実が理解できず、とりあえず頭を抱えて天を仰いだ。なぜそうしたかはわからないが、きっと今まで、困った時に頭を抱えて天を仰げば誰かがなんとかしてくれてきたからだろう。その誰かとはたいてい親なのだが。
しばらくすると怒りがこみ上げてきた。なぜだ、僕はさっき電源を切ってからソフトは抜いていないし、変な振動も与えていない。これはメーカーの不良なんだ電話してやるああ頭に来るこんなゲーム機クソソフト!
スーパーファミコンを壊すべく立ち上がり、強烈な立ちくらみがした。
ふと立ちくらみの中で、自分を見ているもう一人の自分になったような錯覚がした。
立ちくらみに喘いでいる自身が見える。

無精ヒゲは濃く、髪は伸びきり、肥えている。28歳のデブがフラフラと苦しんでいる。
なんだあの小汚えおっさんは、仕事もしねえで実家で、2010年にもなってスーファミに向かってキレてんよ。
それが自分だと気付いた瞬間の絶望といったら他に類を見ない。自分のことがこんなに醜く見えたことは今までにない、そこには前途をなくした生き損ないがいた。

立ちくらみは治った。けれどもまだ、現実が理解できない。
冒険の書が消えたことではもちろんなく、ゲームしかしないで28歳まで生きてしまったことだ。
ユウイチはユウイチのそれを前のセーブ地点まで戻したかったが、いつセーブしたかはわからない。セーブしていたとしても、どんな方法で戻るのかもわからない。むしろ、冒険を最初からやり直したかった。
そんな人生、リセットしたくなった。
しかしどこにもリセットボタンがない。
セーブ地点も死者を蘇らせる教会もない。
加えて、武器も持ってないし呪文も知らないし肩書きもない。
人より秀でているものが何もないんじゃないか。
そう思い始めたらあとは地崩れのように止まらない。

自分の身に降り掛かる現実は、事実として受け止めなければいけないのだ。
大洪水が起きたら逃げなければ死んでしまうし、大洪水が終わっても復興させなければ住むところがなく死んでしまう。

60×60×24×365×28+α秒を、少しだけ振り返った。
ユウイチを取り巻く、今までのあらゆる出来事において、ユウイチは常に第三者であったように思える節もある。直面も解決もせず、周囲に委ね倒す。
それは極めて安全であり、責任を伴わず、甘ったるい。
「男の顔は履歴書であり、切り抜けてきた苦労がその顔に刻まれる」なんて文句をどこかで見た。
白紙の履歴書を提出されても、目を通さず破棄するのが通例だ。
地崩れはいずれ補強工事をしなくてはならない、このままでは死を決意するまで止まりそうにない。

改革が必要であることは明々白々だった。
ただ、何から始めたらいいのか、ベクトルを向ける行方さえ全くわからなかった。
改革の必要性に気付いたその日から3日間は、ユウイチは排泄物製造マシンだった。

「27歳で初めてハープを触りましたけど、今ではそれが仕事になって家族を養っています。」
と31歳の男性がインタビューを受けている番組を、ユウイチは4日目に見た。
「ハープか」とだけ思った。オレとは無縁の世界だな、とも思ったがそう思うと、現実の世界はユウイチとは無縁なのではないか、と恐ろしくなってしまうので、いつもそう考えるのはやめていた。
音楽には興味が全くなかったので、その男性のインタビューも耳半分で聞いていた。
冷蔵庫に生協のパスチャライズドミルクを取りにいこうと立ち上がると、インタビューを受けている男性はこう言った。
「みなさん、自分を知りすぎているつもりになっているんですよ。自分を知るのは、誰かを傷つけないための最低限でいいんです。それ以上に知った気になると、今自分に出来ないことは、永遠に出来ないとか自分はこういう人間なんだみたいに決めつけてしまう。そんなの、自分のこと全くわかってない人ですよね、逆に」

「シナリオライターたちに創られた出来レースの世界を、一列縦隊で歩きながら魔王を倒す」だけのことを冒険と呼ぶのが正解ならば、現実では「排泄物製造マシンのまま死ぬよりは、何回失敗しても何かに挑んで、極めるまで諦めない」ことを冒険と呼ぶ、と、ユウイチは自ら勘違いをしようとした。
間違いだとしても、その間違いを自分の力でいずれ人々のスタンダードにしてしまえばいい。

自分が何に興味があるのかを洗い出して、まず仕事を見つけよう。
リセットではなく、更新ボタンを押そう。
そして一人暮らしをしよう。
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